『Love You Forever』監督、マシアホフ・セパンド インタビュー

ノーマルスクリーンで『『Love You Forever』』を日本初特別配信を行っていた2022年のゴールデンウィークに監督のひとりであるマシアホフ・セパンドさんとインスタグラムでお話ししました。

作品の詳細はこちら:http://normalscreen.org/events/lyf

そっちは夕方の6時?

そうです。オークランドにいます。

映画は多くの人たちに観られています。嬉しいですね。

公開してくれてありがとう。

今この配信を5人が観てくれてますね。友達だね(苦笑)。

そんなにインスタは見ないけど生配信は好きです。

イントロの素敵なメッセージも送ってくれてありがとう。あれは自分の部屋で撮影したんですか?

そうです。メッセージを送らないといけないのを忘れていて、あるパーティで酔っ払って帰ってきて、その流れで撮影しました。だから電話を使って変なことしてます(笑

質問ですが、象徴的なものがたくさん映画に使われていますね。見るたびに新しいものを見つけます。分かりやすいものもあれば隠されているものもありますね。例えば、ザクロが象徴的に使われているのは、はっきり分かります。初めからザクロを使うと決めていたのですか?

ザクロはイランでも有名なシンボルです。私と妹はイラン人ですが、イランでは命や生命力を象徴するものなので、たくさん食べると体にいい、とママがよく言っていました。だから私にはザクロがハート/心臓に見えます。私が自分の不安(anxiety)と付き合っていく際に頭の中でイメージするのは、胸から心臓を取り出して、自分の外に出す様子です。胸に抱えているには、ときどき辛すぎるから。映画の中では、私は妹に向かって、「あなたの夢を見て、自分の心臓を胸から取り出した」と言っていますが、ある意味、妹が私の心臓なのです。私が世界で一番好きな人、そんな彼女を失うということは、ザクロを私の体から掴み出すようなものです。

私の父はよくザクロを食べるたびに、戦争から帰ってきた人が「人肉はザクロの味がした」と言っていた、という話をしていたので、映画を観ていてそのことを真っ先に思い出しました。

いいですね。

始めからザクロは使いたかったってことですよね。

脚本を書いたときのことをあまり覚えていなくて。映画で描かれているものは一度に一気に湧き出てきたものです。内容を編集することもないまま「この脚本で作ろう」と話をすすめました。だから登場するシンボルのほとんどは私の無意識にあったもの。他に登場する象徴的なものですが... 他にわかりやすいのは、妹がクローゼットに隠れていて私は彼女を見つけることができないシーン。それはきっと、自分達がクィアとして育ち、お互いがクローゼットにいる状態から見つけ出したい、という体験と関係しています。彼女は「モンスターだけがクローゼットに隠れる」と言いますよね。クィアであり自分がモンスターのように感じ、さらにそこから外に出る、という体験の暗喩。それでもお互いを見つけださなければいけない。わかりやすいですがそういうことです。

あの家自体を何かの象徴として捉えることもできますよね。あの家で撮影することは当初から決まっていたのですか?

あの家に行ったことはなかったけど、ハナから説明を聞いていました。あれはハナのお母さんの家で、主に特徴について聞いていました。丘があることも聞いていて、その下に妹を立たせて上からどのように撮影するかもイメージしました。ハナが言葉で描写してくれていました。

そこに美しい海や自然があることも知っていたわけですね。観る人がシンボルにそれぞれの考えを投影することもできますよね。

映画を観るときはいつも暗喩について考えるのが好きです。本作の主なメタファーは、愛する人やものを失った後nなどの深い悲しみ(grief)で、しかも何も起こっていない時に感じる悲しみです。私の場合、妹に起こるかもしれないことついて心配しています。赤い灯りは現実ではなくて、私の頭の中にあることや恐れていることを表している。好きすぎて妹のことを恐れている、ということにもなりますね。
トランス女性としてこの世の中で生きるということは、それだけでも怖いことですが、姉妹でトランスとして生きてケアし合うということは本当に美しいことでもある。そうなんだけど、身の回りにある危険なことに影響されないというわけではない。平穏に存在することができないということですね。

この映画は2020年に発表されたんですよね?

2020年の終わりですね。

パンデミック前に撮影したということですか?

そう。始めは、ほぼ全ての映画祭が配信で、初めて劇場で上映されて私も参加できたのは、ロサンゼルスでおこなわれた全米監督協会での上映でした。私はロサンゼルスの出身だし協会のことも知っていたので、嬉しかった。一方、会場で大勢の人に観られるというのは怯むような体験で、自分の裸も彼らに見られたと思うとなんともおかしかったですね。

会場で観客と一緒に鑑賞して、反応も見られたというのはよかったですね。

みんな親切だし嬉しかったけど同時にとっても恥ずかしかった。自分の演技も恥ずかしくて、どうやってみんなこれを耐えるのと思いました。今後の自分の作品では自分は出ないと決めました。この作品は予算もなくて俳優を起用することはできなかったし、妹と私についての映画なので私たちが出ていることは間違ってはいないけど、オスカー受賞はないですね(苦笑)。

今後は役者と仕事をしてみたいということですね?

そうですね。これまでもMVなども監督していますが、セリフがあるものではなかったので、まず自分で演技をやってみるというのはいい経験でした。現場には私たち3人だけがいて、仲がいいので撮影中ずっと(共同監督の)ハナと妹は私の演技を馬鹿にして笑っていました(笑)。互いにですけどね。もちろん他の人だったらそんなことはしないけど。

チームに笑われながら演技をするのは大変だったのでは?(笑)

それはもう。3人で全部をやっていたので、自分たちだけでやり遂げたことを誇らしくも思います。撮影、照明、ブロッキングなど全てです。私は監督しながら演技もしました。大忙しです。でもすごいことだと思う。自分は音楽のDIYカルチャーにいました。ローランド(本配信主催者のひとり)と私は友人のロージーとバンドをしていて、おもちゃの楽器で始めて自分達もよくわかっていなかったけど、最終的には欧州ツアーをしていました。だから、小さなことから始めて驚くような結果につながることもある。

DIYカルチャーの話はLAのことですか?

大学生のときだからサンタクルーズね。カリフォルニア大学サンタクルーズ校に行っていました。でもそれが本格的になったのはオークランドで、周りにいた人たちはグライミーな音楽や映画やアートを作っていて、自分の実験的なスタイルを作るのには最適な場所でした。

この作品で不安と向き合ったということですが、この作品を制作し、他者と共有することで、不安に関して変化はありましたか?

結果を測るのは難しいですね。不安が完全に消えるということは無いと知りました。トラウマは形を変え、メンタルヘルスの問題として残ります。ただ、傾向を把握できるようにはなりました。感情を吐き出してすっきり!というわけにはいかない。いまでも愛する人を失うという不安は常にあります。でも少なくとも例えば映画を見てその状況を客観視できる。抱えているのは苦しいですが、私には対応策がある、そう思うようにしています。

今後もホラー作品を作りますか?

私が作るものはすべてホラー作品だと思います。ホラー大好きだし自分の表現にはベストですね。人生で自分が怖いと感じるものとの向き合い方がそうなのです。例えば準備中の新作は、『Smooth』というタイトルで、体毛についてです。私はイラン人で体毛が濃いのですが、毛を剃って社会の求めるフェミニニティにあわせようとするとき、たまに、皮膚をすべて剥ぎ取って筋肉もむしり取って骨だけになって何にもなりたくないと思うことがあります。ジェンダーに意味がなくなればいい、と思うのです。

(この会話は日本時間2022年5月5日朝にInstagram Liveで行われました。)

本編公開のために監督が送ってくれたビデオメッセージより。