タンズアンタイド関連おすすめポップカルチャー&アート

2020年1月13日に日比谷図書文化館で上映した『タンズアンタイド』が与えた強い影響は、現在のカルチャーにも見てとることができます。
その一部と関連する作品や作家を日本からもアクセスしやすいものを中心に紹介します!

(配信情報などは、2020年1月現在のもの)

 

Blood Orange / Dev Hynes

イギリス出身のデヴ・ハインズは、自身のインスピレーションとして『タンズアンタイド』でフィーチャーされる詩人のエセックス・ヘンプヒルをあげている。2016年に発表したアルバム『Freetown Sound』収録の『With Him』という曲では、マーロン・リグス(『タンズアンタイド』監督)の遺作『Black Is...Black Ain't』でうたわれる詩をサンプリング(下のビデオの01:07から)。ハインズはこう語っている。“エセックス・ヘンプヒルは90年代に38歳で亡くなっているけど、もし彼に会っていたら、シンプルに「ありがとう」と伝えたと思う。” 

 


Moonlight

近年、黒人のゲイ男性を描いた映画といえば、やはりバリー・ジェンキンスの名作『ムーンライト』(2016)だろう。ゲイであるタレル・アルバン・マクレイニーの原案にジェンキンスの体験も随所に重ね、セクシュアリティやアメリカにおける黒人男性のマスキュリニティの葛藤を描いている。また、両者ともHIV/AIDSと生きる母親を持ち、その体験も反映されている。ジェンキンスのデビュー長編作品『メランコリーの妙薬』(2008)は 、サンフランシスコ映画批評家協会でマーロン・リグス・アワードを受賞している。
→DVD/BR、ネットフリックスなどで配信中|配給:ファントム・フィルム

 
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Pariah

2017年に黒人女性脚本家として初のアカデミー脚色賞にノミネートされたディー・リース(Dee Rees)の長編デビュー作『パライア(アリーケの詩(うた)』(2011/2007年発表の同名短編映画を長編化)は、スパイク・リーが製作総指揮に参加し制作を後押ししたリースの半自伝的物語。ブルックリンに住む高校生のアリーケが同性に惹かれつつも両親や友人との関係の中で自身のアイデンティティに葛藤する姿を描いた、黒人女性の表象が今よりも少なかった当時のアメリカに新鮮な衝撃をあたえた作品。劇中でアリーケがよむ詩が胸にささる。
→ Amazonプライムなどで配信中

 

その他おすすめ映画

『ストロング・アイランド』(N)、『ビールストリートの恋人たち』『私はあなたのニグロではない』『憲法修正第13条』(N)、『マーシャPジョンソンの生と死』(N)、『パリ、夜は眠らない』『ブラックパワー・ミックステープ ~アメリカの光と影~』
(N=ネットフリックスのみで配信|その他作品はネットフリックスなどで配信中)

 


ハイ・リスク―禁断のアンソロジー

1993年に白揚社より発売された本『ハイ・リスク 禁断のアンソロジー』は、エイズ危機の壮絶な体験を表現したアメリカの詩人や作家たちの作品を25本以上収録。ヘンプヒルの「荒い吐息」(山形浩生訳)も読むことができる。現在も東京・下北沢のB&Bや古本屋などで入手可能。


『私はあなたのニグロではない』関連本

ドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』ウェブサイトのブックガイドでボールドウィンやアメリカ公民権運動周辺に詳しい本が紹介されている。
→ https://www.magichour.co.jp/iamnotyournegro/book/


詩誌『て、わた し』

国内外で話題の詩人の作品を日本語で紹介するインディー雑誌『て、わた し』。ウェブサイト説明文に「日本におけるLGBTQ・難民・フェミニズムの詩の作品紹介は必ずしも盛んとは言えません。「て、わた し」はマイノリティの詩の紹介を通じ、日本の文学に新たな種を巻きたいと思っています」とあるように、第5号ではアメリカのJ・ジェニファー・エスピノザ(「トランスジェンダー女性としての生きづらさをテーマに詩を書く」)や第2号では、ベトナム系アメリカ人でゲイで現在高い注目を集めているOcean Vuongの作品が掲載され、第7号では『タンズアンタイド』の翻訳・字幕にも参加した西山敦子さんも翻訳で参加している。
→ http://tewatashibooks.com/category/


Glenn Ligon

リグスやヘンプヒルと同世代で、アメリカを代表する現代アーティスト、グレン・ライゴン。彼は、アメリカにおける黒人や黒人男性のアイデンティティ、セクシュアリティなどをコンセプトの中心にした作品を幅広い手法で発表し、2017年には「Blue Black」(ピューリッツァー美術館)と題した展示のキュレーションも行なっている。彼の個展『In A Year with a Black Moon』は、表参道のRat Hole galleryで2020年3月14日まで展示されている。
→ https://www.ratholegallery.com/


Tiona Nekkia McClodden

フィラデルフィアを拠点に活動するアーティストのティオナ・ネキア・マクロデンは、人種、ジェンダー、セクシュアリティのテーマにソーシャルコメンタリーを交え、コンセプチュアル作品から映画やキュレーションまでを手がけ注目されている。これまでに名があまり知られていなかった黒人の詩人ブラッド・ジョンソンの作品に触発された映像作品「The Labyrinth 1.0」はノーマルスクリーンでも上映しウェブでも公開中。そんなマクロデンは、エセックス・ヘンプヒルがなくなって20年目の2015年、アートの(ない)日にあわせ「Affixing Ceremony: Four Movements for Essex」という彼の詩を題材にしたウェブ作品を発表し、現在も鑑賞できる。4つのアクション(Four Movements)をおこすと作品の全体像が見える仕組みになっている。
→ http://affixingceremony2015.tionam.com/


Lyle Ashton Harris

ライル・アシュトン・ハリスのこの作品「Selections from the Ektachrom Archive」のベースとなっているのは、彼が1986年から1998年に撮った写真をスライドで流す作品。リグスも何回も登場し、ベル・フックスとのツーショットも。なかでもリグスが母と祖母と車中で写っている写真に関し、ハリスは、「AIDSになったブラックのゲイ男性は一人で死んでいった」というステレオタイプとは違う支えなどを感じ取ることができると話している。ここには、ヘンプヒルも登場。