一切行苦。チェン・ティエンジュオの『忉利天』F/T17 中国特集 

舞台芸術の祭典・フェスティバル/トーキョー2017。今年は2014年から続くアジアシリーズで中国が特集された。しかも人気作家を呼ぶのではなく、注目の若手世代(ミレニアル世代)にフォーカスがおかれ、急速に変化する生活、アート、ポップカルチャーも中国から専門家を迎えたトークイベントやコンサートなどを通し紹介された。(例えば、『秋音之夜』と題されたライブイベントではNova Heartなどがパフォームし盛り上がった)

配布資料で、このプログラムのコーディネーターである小山ひとみさんは書いている。中国には「私たちの想像をはるかに超える「違い」が存在している」と。「『中国』というのは当然だけれど、一言では語れないということ。」

F/T17 でも、ジャンルを超えて多くの「違い」を詰め込んだような作品があった。「中国特集」を締めくくった注目のアーティスト、チェン・ティエンジュオさんの『忉利天(とうりてん)』だ。

彼のビデオになった作品を生でみることについて、 Mikikiの記事は「見たい。見たくない。… やっぱり見たいのだ。」と書いている。自分もまさにそういう感覚でチケットを購入した。

 

チェンは本作品で、構成・演出・美術を担当しているが、演劇というよりはパフォーマンスで、実際彼の活動はギャラリーや美術館から発展していったという。

劇場には大きなスピーカーと色々な種類の照明が吊るされ、ステージ上だけ大きなクラブのようでもある。最前列はビニールシートで覆われている…。ステージ前方には白塗りの男?神様? 手が蛇のようになっている。
開演してしばらくすると、下手には琵琶を弾いたり、音がなる人形を使う怖KAWAII風のひと。上手にはDJブース(!)が見える。背景には巨大なX Yという文字(ネオン風)が赤で煌煌としている。そこから徐々に音と光は大きくなり、三人の役者(ダンサー?)がそれぞれに動く。子供が観たら おねしょ確実のトラウマになりそうな世界が広がる。

忉利天とは、仏教の世界にある天界の1つで、欲界(本能的な欲望にあふれた世界)に属する六天の2つ目。三十三天とも呼ばれる、らしい。舞台上は、天国か。いや、自分には舞台上の世界はまるで、地獄からその状況を楽しんでいる3人を地上に引っ張ってきて、何かを再現しようとしているかのように見えた。

中盤、赤い粉で大きな体を真っ赤にしたユー・ハンさんが鎖に繋がれてもがくように下手の通路に降りてきたとき、観客は床をはっているその肉体を落ち着いた様子で座ったまま見下ろした。その瞬間、自分がサディスティックな気分になり驚いた。
その間も服が振動するほどの低音が大音量で鳴り響く。ドイツとかでダークでディープな音と言ったらこういう感じか? 体が勝手にうごく。心地よい。

65分ほどの上演後、出演者全員とチェン・ティエンジュオによる簡単なトークが通訳付きで行われた。チェンは作品には登場しなかった。白塗りをしていたベイオウさん、迫力の琵琶奏者は西原鶴真さん、澄んだ歌声も素晴らしかった大半の音楽担当はアイシャ・デヴィさん。西原さんはチャンとのコラボレーションについて聞かれ、日本語で、(今は)「アジアはなかなか力がないので。アートとか音楽も衰退しているとおもうので、やっぱりヨーロッパとか海外には負けているところがあるので」ネットで見たチェンの作品に衝撃を受けた、と随分と雑な発言をしていたのも気になった。

チェンからは、この作品は本来は2時間あったが、今回はその半分であり説明的なくだりなどを省略し、よりダンス(舞踊)パフォーマン的なものにしたと説明された。出演者も総勢25人を出したかったと発言があり、驚くと同時に納得できた。今回の公演は、どこか間延びしていると感じる部分があったことも否めなかったからだ。時折音楽の方が力をまし、踊る3人のパフォーマーが極端に小さく頼りないものに見える瞬間があった。しかし、もしかするとチェンは日本の観客が知っている、お経をよむ時間のようなものをイメージしていたかもしれない。または、終始座ったままで、ほとんど体を揺すりもしない観客に問題があったのかもしれない。

いずれにしろ、欧州での経験(インタビューで「衝撃だったよ!」と語っている)やインターネットを介した世界的な流行(ビデオにある音、ファッション、平べったい感じのCGや色、強調された“デジタル感”または“インターネット/ソーシャルメディア感”)をごくごくと飲み込み、身体に染み込んだ中国の生活感や学びえたチベット仏教を混ぜて吐き出すような表現(ポストモダン?)をする彼が、今後、げほげほっと吐き出し切ってからがより楽しみだと感じた。皮肉ではなく、このアーティストはそこで果てるのではなく、にやっとする姿が想像できるから。

 
上演後に撮影に協力してくれたチェン・ティエンジュオ。Tianzhuo Chen. Photo by Akari Yamaguchi for Normal Screen

上演後に撮影に協力してくれたチェン・ティエンジュオ。Tianzhuo Chen. Photo by Akari Yamaguchi for Normal Screen

 

F/T17 アジアシリーズ vol.4 中国特集 『忉利天(とうりてん)』
構成・演出・美術チェン・ティエンジュオ
2017年11月10日7:15PM開演
あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)