ワイルド コンビネーション:マット ウルフ監督インタビュー
/ノーマルスクリーンでは2015年に初めての上映としてマットウルフ監督の長編デビュー作『ワイルドコンビネーション:アーサーラッセルの肖像』(2008)を東京渋谷のアップリンクで上映しました。2018年11月、この作品の発表から10周年を記念し、日本でもDVDが発売されました。この機会にここに2008年に行われた監督のインタビューの翻訳版を公開します。映画とあわせてお楽しみください。
ちなみに、ウルフ監督の新作は、テレビニュースを亡くなるまでの30年にわたり毎日24時間録画し続けた女性マリオン・ストークスのビデオをもとに制作された『Recorder: The Marion Stokes Project』。編集は出口景子さん、音楽はオーウェン・パレットという注目作です。
Interview with Matt Wolf (2008)
映画では複雑な人物として描かれているアーサー・ラッセルですが、彼について世間が誤解していることや大げさに言われていることはありますか?
死んだ後に認識される文化的人物の「忘れられた天才」という画家の神話のような話はたくさんあります。アーサーを天才とか名もなき伝説のようにレーベルする必要があるのかわかりません。この映画の伝記的な部分から、なぜ彼がまわりの仲間のように有名にならなかったのかが少し分かると思います。ライターで音楽家のデイヴィッド・トゥープがこう言っています「彼は明らかに成功したかった、でも彼にはエンターテイメント業界でやっていける要素がほとんどなかった」 アーサーにはチャンスもあり、挑戦もした、でも様々な理由があり名声とまではいかなかったのです。でも彼はつねに明日をみていた、だから彼の音楽には未来的なものがあるのです。数十年後にファンができたことが僕には理解できます。
関係者へのインタビューや資料映像を掘りおこした後、アーサーについての印象は変わりましたか?
もちろんです。もうこの世に存在しない人物をテーマに映画を制作することは面白い経験でした。今はアーサーについての話を聞き、彼をよく知っているような、深い共感のようなものを感じます。でも同時に、アーサーがこの映画についてどう思うか、彼をちゃんと描写しているか、彼にとってもフェアな内容か、という心配のようなものもあります。彼には会ったこともないのに、まるで彼のことを知っていたかのようです。
制作についてお聞きします。アーサーのファンはつねに彼の資料、特にビデオが少ないと感じているようですが、どうやってこれらの資料を見つけたのですか?
制作の序盤で、僕は長編は無理だと思っていました。なぜならアーサーを蘇らせるほどのビジュアルが残っていなかったからです。それが結果的には制作課題となり、クリエイティブでユニークな方法でアーサーと彼の音楽を表現することになりました。俳優を使い、とうもろこし畑や(NYの)ステタン島行きのフェリー、ウェストサイドなど彼を喚起させるミステリアスな数ショットをビデオとスーパー8で撮影しました。ほとんどフェイクの資料映像です。他にアーサーの人生にまつわる部屋や物をドラマチックに撮影しました。アーカイブ資料の少なさが、面白いビジュアル表現を助長したんだと思います。アーカイブのリサーチとは宝探しのようなもので、幸運にも素晴らしい発見があった。アーサーが何時間もカメラに向かって話している映像は全くなかったけど、資料の少なさが、僕らがしたことをより特別なものにしたと思います。
アーサーの両親についてはどうですか? オスカルーサが彼に与えた影響を感じられましたか?
両親のチャックとエミリーには刺激をもらいました。二人は子供のころに出会い、それ以来ずっとアイオワのオスカルーサに住んでいます。チャックは特に個性的で、映画でも分かると思いますが、笑いの間も最高です。でも2人とも大らかで知的で、インスピレーションがあります。彼らの影響はアーサーにもあったはずです。アイオワの広大な景色と象徴的な光景、特にとうもろこし畑には多大な繋がりを感じていたはずです。チャックが撮ったアーサーがとうもろこし畑にいる写真やトラックと写っている写真が映画にも登場します。
映画では音楽に合わせ、アーティスティックな映像表現があり、こどもの遊びを直接的、また間接的にイメージさせる場面もありますが、アーサーの何からこれらのニュートラルな表現へと至ったのでしょうか?
気付いてくれてありがとうございます。こういう子供のような経験と遊びを織り交ぜることに努力しました。僕がアーサーと彼の音楽に繋がりを感じるとても大きな理由でもありますが、それは彼がこだわった幼少期の元気さと前向きさと喜びなんです。たまに彼は子供のような声を出し、子供の純朴さと単純さを表現し、またある時はそのことについて直接的に歌います。「こどもたちよ!大人はみんなバカだよな!」と。実際彼は、大人はバカだ!と信じていたのでは、と思います。
アーサーはなぜ曲を完成させることができなかったと思いますか? 完璧主義の苦しみ、というだけだったのでしょうか?
彼の苦しみは分かります。僕もこの映画を完成させるのは辛かった。でも時間が迫っていました。何もないところから何かを作ると可能性も無限大です。そこでうまくやっていくには作る過程に集中することかもしれない。アーサーは深く念入りに過程と向き合っていた。もちろんノイローゼや自己嫌悪に落ちいったりもします。でも彼は音楽を作ることを愛していたんだと思います。完成させることが全てではなかったのです。
監督は過去の作品でもゲイのアイデンティティやアメリカにおけるゲイの経験ついて制作をしています。 アーサーにとって同性愛者というのは複雑な彼の一面にすぎませんが、この映画とあなたの映画監督としての大きなテーマとの関連性はありますか?
『ワイルドコンビネーション』がクィア映画として観てもらえるといいですね。僕が彼に感じる大きな関連要素は彼がゲイであったということで、僕はトム・リーとアーサーのラブ・ストーリーを映画の中心にしました。一方、この映画はゲイカルチャーについてではありません。アーサーとトムはそこまでゲイコミュニティやカルチャーと繋がっていなかったようです。でも、僕は映画監督として、ゲイの伝記やあの時代のゲイの文化人について関心があり、アーサーのストーリーが、その興味と関心の延長線上にあるのです。
なぜ彼の音楽と人物像は未だに、彼が生きていた時以上に人々を惹きつけているのでしょうか?
アーサーの音楽は熱く、とても個人的なものだと思います。歌い手を近く感じ、そして(少なくとも僕の)感情に響きます。計り知れないほどの美と、様々なものも詰まっています。人々は、それが理由で彼の音楽をもっと体験したいというだけではなく、より深い、または感覚レベルでの彼との繋がりを求めているのではないでしょうか。時代を問わないアートを評価するというのはありがちですが、彼の作品はそうなのです。どこでもいつでも聞ける、でもそれらが生まれたのはディスコ、前衛音楽、CBGBが生まれた伝説的な時代というのもとても興味深い。人々が今後もアーサーの音楽を発見し続けるといいですね。
Translation: Sho Akita
2008年: Oscilloscope Laboratories公式資料より
日本版DVDはTANG DENG Co.より発売中!
価格:税込 4,320円(本体4,000円+税)
品番:TANGD011
仕様:カラー/片面2層/MPEG-2/英語(ドルビーデジタルステレオ)/16:9/日本語字幕/リージョン・オール
特典映像等:
・マット・ウルフ監督によるオーディオ・コメンタリー(英語)
・アーサー・ラッセルによるパフォーマンス
・アーサー・ラッセルの葬儀でのアレン・ギンズバーグによるマントラ詠唱
・アーサー・ラッセルが両親へ宛てたテープ・レター(対訳付き)
・イェンス・レークマン、ヴェリティ・サスマン(Electrelane)、ジョエル・ギブ(The Hidden Cameras)、アーサーズ・ランディングによるカバー・パフォーマンス
封入特典:スペシャル・ポストカード
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出版・販売:TANG DENG 株式会社