Heart. Beat. Pulse. Dance.

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
June 12, 2018 in Orlando, Florida. JOE RAEDLE GETTY IMAGES

June 12, 2018 in Orlando, Florida. JOE RAEDLE GETTY IMAGES

 

アメリカ、フロリダ州のクラブPULSEで銃撃があり49人が殺され53人が怪我を負った事件から5年が経つ。2016年6月12日、ディズニーワールドやユニバーサルスタジオがある観光地のオーランドで起こったその事件の犠牲者の半数はプエルトリコ系、他多くもラテン系のクィアの人たちだった。その夜は“ラテンナイト”だったから。この事件をきっかけに同年5月にはメキシコのゲイクラブに乱入してきたグループが180人でうまる会場に向けて発砲、7人が殺されていたことも報じられた。友だちに会うため、踊るため、安全で安心できる空間を求めて彼らが集った夜を想う。

短編映画『Sweater』

2019年に欧米のLGBTQ映画祭を中心に上映された笑えるショートフィルムをご紹介!

おニューのセーターを着てデートに出かけたコーリーでしたが、、、。

音量上げめでどうぞ。

今回はこちらからお願いし、日本語字幕をつけさせてもらい、さらに質問にも答えてもらいました!鑑賞後にぜひ読んでみてください。

 

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Nick Borenstein | 2019 | 5 min | Color | USA | English





インタビュー with ニック・ボーンスタイン

Q:大変な年になりましたが、調子はどうですか?いつもよりクリエイティブになる作家もいれば落ち込みがちな人や新境地に入ったような人などがいるようですね。ニックさんは、どう過ごしていますか?この状況下で平常心を保つためにしていることはありますか?

クレイジーな年になりましたね。私は1日ずつ2020年を進んでいるという感じです。絶好調な日もあれば酷い日もあり、その中間という日もありますね。2020年には、今と今あるものに集中し感謝することを教えられました。自分はニューヨーカーなので、いつも忙しくあちこち走り回っていました。でも3月からは、じっとしている状況におかれています。ずっと恐怖も感じていますが、本当に必要なものについてじっくり考える時間にもなっています。ヨガやダンスをたくさんして、執筆もたくさんしています。よく友人たちと状況を確認しあい、スペインに住むボーイフレンドとオンラインで一緒に料理をしたりしています。

Q:昨年はダンスを中心としたレジデンシーをされたようですね。ニックさんは、以前からダンサーだったのですか?ダンスと演技と監督はどう影響を与え合い、キャリアとして発展してきましたか?

ずっとダンサーです。でも、映画にダンスを取り入れたのは『Sweater』が初めて。メキシコシティにあるCasa Luでアートレジデンシーをしたとき、長編映画のスクリプトの執筆に集中するはずだったのですが、街のインスピレーションと他の参加者とのコラボレーション、それに自分のダンスへの愛のせいでダンスパフォーマンスをすることになりました。成長できたと感じるような経験だったし、なによりダンスを自分の芸術的表現の大きな部分だということを再認識しました。踊りと演技と演出を融合させることが大好きなのです。これからもっとそういうことをしていきたいとわくわくしています!

 

Q:劇中の音楽もぴったりですよね。この音楽を使うことは撮影前から決まっていたのですか?

ありがとう。楽しんでもらえたようで嬉しいです。この曲のことは実は知らなかったのですが、素晴らしい音楽スーパーバイザーと相談して何百曲も聴いてこの曲を見つけました。ダンスホールやヒップホップのダンススタイルが好きなので、そういうインフルエンスを受けているものを使いたいというのは自分でもわかっていました。うるさくて勢いがあってドキドキさせられるような、つまりキラーダンストラックが欲しかった。リサーチの結果Leo Justi & Brazzabelle ft. Zanillyaの「Swipe It Off」を見つけて、それが完璧だったというかんじです。

Q:長編映画の計画があるということですが、そのことについて教えてください。

ちょうど長編映画を書き終えたところです!誰かを失った悲しみについてのコメディースリラーです。ユーモアとホラーを混ぜて難しいストーリーに光を当てるのが好きなのです。他の短編映画(Sweater、99、Pete Can't Play Basketball)でもそうですが、この長編はコメディで胸を熱くさせつつ、シュールでもあります。それにちゃんとダンスもちょっとありますよ。

 
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Writer & Directer: Nick Borenstein
Producer: Cecilia Delgado

Starring: Nick Borenstein
With: Jonathan Marballi|Evan Hoyt Thompson|Daniel Jaffe|Lauren Ireland|Yedoye Travis
Dancers: Maria Ambrose|Emiko Kondo|Rose Lu|Natasha Markwick|Molly McGee|Maria Luisa Mejia|Saemi Park|Deena Parrilla|Leomary Rodriguez|Dan Santiago|Manatsu Tanaka|Betty Walkup

Cinematography: Marc Katz
Production Design: Kendra Eaves
Choreography: Tiana Hester
Editing: Cecilia Delgado

画像提供 / Photo Courtesy of the Artist

 

アニメーション映画『ADORABLE』

台湾出身で現在はベルリンを拠点に活動するアニメーション作家チャン・チェンス(鍾承旭 Cheng-Hsu Chung)の5分40秒の手描き短編アニメーションをご紹介!

 


「愛、差別、自由!」

あるクィアの人が自身のセクシュアリティをクィアコミュニティやカルチャーといったものを通し探求するとき、そこは必ずしもスムーズに自分を受け入れてくれる空間とは限らない。ポルノ、アプリ、夜遊び。すてきな出会いがある一方、そこには時に体型への厳しい視線、ドラッグ、人種差別なども… チェンは、ファンタジーを織り交ぜた形で自身の経験を映像化しています。


チャン・チェンス(鍾承旭 Cheng-Hsu Chung)

台湾で育ち国立台北芸術大学を卒業後、渡英。ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでアニメーションを学び修士課程を卒業。のちに、ベルリンでの生活を始める。彼はこれまでに、ジョン・グラントのミュージックビデオにも参加し、2019年には!!! (ChkChkChk)のビデオ「Couldn't Have Knonw」を制作し監督している。『ADORABLE』は、2018〜2019年にかけて15以上のアニメーション映画祭やLGBTQ映画祭でも上映され高評価をうけた。

 
 
Image Courtesy  of the Artist.

Image Courtesy of the Artist.

ADORABLE
2018

Director: Cheng-Hsu Chung
Music, Sound: Father
Sound Design, Mixing: Joe Farley
Producer: Royal College of Art



短編映画『親子になる』

ノーマルスクリーンではこれからウェブ上でも鑑賞できる作品を紹介していきたいと思います!注目の作家や作品を紹介したり、字幕をつけたり、テーマを立ててそれに関連する作品をこちらで公開したりしていきます。

今回は、欧米の映画祭が注目するカロリナ・マーコヴィツ監督の5作目の短編映画『親子になる』(The Orphan / O Órfão)をぜひご覧ください。2018年〜2019年に世界の映画祭で上映された作品です。主人公は、ブラジルの孤児院で生活するティーンエイジャーのジョナサス。実話をベースに構築された物語です。

 

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Carolina Markowicz | 2018 | 15 min | Color | Brazil | Portuguese

孤児院で暮らす個性豊かなジョナサス(Kauan Alavrenga)。髪を染めたり、口紅を塗ったりする彼は、受け入れてくれる里親をなかなか見つけることができない。そんななか、新たに見つかった夫婦の広い家での生活を始める。

本作品の背景として、ブラジルのトランプと呼ばれる現大統領の存在が考えられる。ブラジルの大統領ジャイール・ボルソナーロは、様々な差別的な発言を堂々とし、息子がゲイだったら「事故で死んだ方がまし」などと同性愛嫌悪も繰り返し明確にしてきた。もちろん、ブラジルでも濃厚な黒人への差別、白人とその他の人々との格差などの根深い問題も改善する兆しがない。本作は、このような政権下におけるブラジル社会の暗喩とも見ることができる。


監督、脚本のカロリナ・マーコヴィツ(Carolina Markowicz)は、ブラジルのサンパウロを拠点に活動し、コマーシャルや短編映画を制作しています。本作は、世界80ヶ所以上の映画祭で上映され、ブラジル作品初の受賞となったカンヌ映画祭のクィア・パルム賞を含む多くの賞も受賞。(主な映画祭&受賞:カンヌ国際映画祭2018 監督週間 短編映画部門、クィア・パルム賞|SXSW映画祭2019、審査員特別賞|ロカルノ国際映画祭2018|トロント国際映画祭2018、ショートカット賞|AFI(アメリカ映画協会)映画祭2019、フレームライン映画祭2019)。また日本では、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019 (SSFF & ASIA 2019)で上映されました。(日本語題『親子になる』はその時のもの)

マーコヴィツは現在、2本の長編作品を準備中。すでに、ロカルノ、トロント、トライベッカなどの映画祭の助成プログラムに選ばれ、支援と注目を受けながら制作が進んでいます。その作品の1つ『WHEN MY LIFE WAS MY LIFE』は、サンパウロ郊外のある家庭で身をひそめるマフィアのメンバーを主人公にしたダークコメディ。もう1本『TOLL』は、ゲイの息子をコンバージョンセラピー(同性愛の“矯正治療”)におくる親を中心にしたダークユーモアのある社会派ドラマになるそうです。

ノーマルスクリーンは日本語字幕制作に関わっていません。
画像提供/ Photos: FiGa Films|Carolina Markowicz

Screenplay Carolina Markowicz
Cinematography Pepe Mendes
Sound AudioInk
Production design Vicente Saldanha
Editing Lautaro Colace
Music AudioInk

参考:
TRIBECA FILM INSTITUTE https://www.tfiny.org/filmmakers/detail/carolina_markowicz
Variety https://variety.com/2020/film/global/luxbox-takes-toll-first-feature-the-orphan-carolina-markowicz-1234626057/
AFPBB News https://www.afpbb.com/articles/-/3167638?pid=19940795

 
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トルマリン短編映画『大西洋は骨の海』+ 解説

アメリカをはじめ世界各地でBlack Lives Matterの運動がひろがっています。 そこで、ノーマルスクリーンで2017年末に上映した作品の中から、ニューヨークを拠点に活動するトルマリン(レイナ・ゴセット)の作品をステートメントとともに公開します。このステートメントの日本語訳をウェブ上で公開するのはこれが初めてです。 アメリカにおける黒人の歴史や白人以外のトランスジェンダーやノンバイナリーの人々のこれまでと現在について考えるきっかけになればと思います。

*下線がひかれている用語には解説があります。

 

トルマリン / Tourmaline
アーティスト。2017年、バーナード・カレッジ女性リサーチセンター(BCRW)の「アクティヴィスト・イン・レジデンス」に選出。パフォーマーでありアクティヴィストだったマーシャ・P・ジョンソンの短編映画『Happy Birthday マーシャ!』(2018)をサーシャ・ウォーツェルと共同で監督。また、MIT出版局が2017年10月に刊行したトランスの人々のアートと文化的活動についてのアンソロジー『TRAP DOOR』では編集者として参加。長年コミュニティオーガナイザーとしても活躍するゴセットは、人権団体シルビア・リベラ法律プロジェクトやクリティカル・レジスタンスでメンバーシップ管理者として従事した。拠点はニューヨーク。

※2018年7月にレイナ・ゴセット(Reina Gossett)からトルマリン(Tourmaline)に改名。本ページの注釈/用語説明では本作品発表時の表記(レイナ・ゴセット)を使用。

Image: Out Magazine, March issue 2019 cover | Photo: Mickalene Thomas

 

トルマリンは、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々の人権に加え、以前から警察や刑務所の問題を訴えてきたアクティヴィストでもあります。

近頃のツイートより「“警察を廃止しろ” (abolish police) と言うとき、それは私たちの頭の中の警察も胸の中の警察のことも意味している」

 

大西洋は骨の海
Atlantic is a Sea of Bones
(Dir. Reina Gossett/ Tourmaline | 2017 | 7 min)

トルマリンによるステートメント:

 私のつくる映画の一貫した特徴は、ありふれた人びとが、世界に対してとてつもなく大きな影響を与えるような日常的行為を、いかに行うのか扱っていること。ストーンウォールで最初にショットグラスを投げつけたマーシャ・P・ジョンソン(『Happy Birthday マーシャ!』)、すべてのIDの性別を男性に戻したミス・メジャー(『The Personal Things』)、エイズの蔓延や、黒人を標的とした取り締まりの経験を通じた喪失感に立ち向ったエジプト・ラベイジャ(『大西洋は骨の海』)。いずれの映画も、ささやかな行為をしたはずが、実際には信じられないほど大きなことだった人物たちの姿を追っている。日常的でありきたりとみなされている物事が、どれほど深い美しさを持っているのか明らかにしたい。そんな心の底からの願望が私にはあって。日常のなかにある美に、私は強く引き込まれずにはいられない。その人が生きてきた人生の物語が、背後に追いやられてしまいがちな人びととの出会いにおいてはとりわけそうで。

 Day With(out) Art のためのビデオ作品のアイデアが生まれてきたのは、オードリー・ロード・プロジェクトに置かれた団体TransJusticeの一員として、シルビア・リベラ法律プロジェクトの事業に従事していたときだった。私たちは、有色人種のトランスジェンダーやジェンダーノンコンフォーミング(訳注:既存の二極化されたジェンダーに自分が当てはまらないと感じている)の人びと、低収入の人びとを対象に、そういう人たちの生活保護へのアクセスに関して、コミュニティを組織化するキャンペーンをしていた。生活保護へアクセスできるかどうかは生死を分ける差し迫った課題だ。私たちのコミュニティの多くの人たちは、福祉事務所やHIV/AIDS関連サービスの事務所での嫌がらせに悩まされつづけている。「無理なんですよ。あなたは援助を受けることができません。男性なのか女性なのか分かるような姿になってから来てくださいね。」なんて言われて。エジプト・ラベイジャはTransJusticeのコーディネーターだった。私たちはたくさんの「研究」をした。状況を改善するための方法について、その戦略を構想していた。彼女がある日、一冊のコーヒーテーブルブックを持ってきたんだけど、その本は、90年代のウエストビレッジでの彼女や、他の人たちの姿を取りあげたものだった。エジプトが語ってくれたのは、その本に載っている人は彼女以外みんな亡くなってしまったって話。それと、その本を作った誰一人として写真を撮る許可を彼女に尋ねなかったということも。私たちはたくさん話した。黒人の経験や、黒人トランスジェンダーの経験、黒人貧困者の経験を、アーティストたちが搾りとる形になっているのだ。そんな人たちが公の評価を得ている。そして、そうやって搾取されることにつきまとう感情について。また、私たちは喪失についても話した。多くのものを失うことはどのような結果をもたらし、それはある場所にいかに取り憑くのかについても。喪失は、ジェントリフィケーションやHIVの犯罪化や、あまりにも行き過ぎた「生活の質」向上のための取り締まりを通じて、クリストファーストリートで、ミートパッキング地区で、チェルシーで、ウエストビレッジで起こってきた。エジプトは驚くべきパフォーマーにしてアイコンだ。私は「このストーリーをいかにして共有できるのか、解明する取り組みをぜひあなたとしたい」と彼女に告げた。

 こういうことが起こっている間に、アレクシス・ポーリン・ガムスルシール・クリフトンの詩「Atlantic is a Sea of Bones」を朗読するのを聞く機会があった。その詩は私に大声で呼びかけてきた。何百年も前の歴史的トラウマからある風景に取り憑いた暴力に耳を傾けること。それによってもたらされる変容の可能性について。同時に私は、「ミドル・パッセージ」(訳注:大西洋間奴隷貿易において奴隷たちが運ばれたルート)を取り巻くSFファンタジー物語について、長年にわたって思いを巡らせて来ていた。それでつい最近興味を持ったのが、デトロイト出身のエレクトロニックミュージックのグループであるDrexciyaだった。彼らの持つ神話的世界観―「ミドル・パッセージ」で、船外へと飛び込んだり、あるいは投げ込まれた人びとが、水中にコロニーや都市を創設する物語―に引き込まれた。私は、人びとの生活や社会空間を形づくる、延々と続くエネルギーの流れと暴力についての映画を作りたかった。大西洋間奴隷貿易からHIVの犯罪化まで、全てが深く密接に相互につながり合い結びついていて、「アーティスト」たちによって搾取されてきたエジプトの物語とも完全に分かち難くあるような映画を。

 エジプトというキャラクターは、エジプトその人をもとにしているけれど、実際のエジプトとは異なるキャラクターになっている。私は、エジプトがジャマルというキャラクターに助けられながら、自己実現に向け邁進する脚本を書いた。ジャマルは冥界の者。さそり座のゴーストというキャラクターで、ジャマル自身の自己実現をエジプトもまた助けるという関係になっている。これはラディカルな互恵主義を意図してのこと。この種の物語ではこれまで幾度となく、主要キャラクターのためだけに存在するマジカルな人物というキャラクターが置かれてきた。それに対して、一方的にケアする/ケアされる関係によるナラティブの型をひっくり返したいという強い思いが私にはあった。

 バスタブのシーンをやるのは、びっくりするほどたいへんだったけれど、素晴らしいものだった。その水は、バスタブから溢れつづけていて。それは精神が語りかける力強い姿のように思える。全てのものは溢れ出しているというメッセージだ。それは押さえ込んでしまうことなどできないものなのだ、と。私は言った。「思い出させてくれてありがとう」って。この感覚は、美しく、頭にずっと残る、叙情的なものだった。こうして水が映画に組み入れられて、一つのキャラクターとなる。私たちはホイットニー美術館の最上部でも撮影をした。美術館が移転してきた新しい所在地が、ジェントリフィケーションによる大変暴力的な浄化の根底をなすような場所の一つであると暗示される。ミートパッキング地区や川沿いの埠頭[ピアー]には、HIV+の人たちのための場所、黒人やトランスの人たちのための場所があった。そしてそれらの場所は、今もまだ存在しているのだ。彼女/彼らは完全に出ていった訳じゃない。そのことを、エジプトの物語や、より幅広く、水辺で営まれることになった生や生活と結びつけることはとても重要なことだと感じた。

 私が行っているコミュニティ組織化の実践は、その場で起こった問題からもっとも影響を受けた人びとに、自分たちで世界に変化を起こすことは可能だという力の感覚を築き上げるためのもの。財源へのアクセスをより多く持っていたり、問題ある状況に力まかせに介入し解決するような権力とのつながりを持っていたりするほかの人たちの助けなど必要ない。そう思える力強さを持てるようにするのだ。私たちは解決策を探っている。私たちは想像し、熟考し、そしてそれを実現する。私にとって、10年間にわたりそういう実践を行って学ぶことは、奥深い旅のようなものだった。そのただ中にいる間は、他のことをすることは想像もできなかったのだけれど、終わりに近づくにつれて、自分にとってアートと物語がどれほど重要かを私は理解しはじめた。どんなところに行っても、シルビア・リベラやマーシャ・P・ジョンソンバンビ・ラムーアアンドラ・マークスそしてS.T.A.R.(ストリート・トランスヴェスタイト・アクション・レボリューショナリーズ)についての話をしたくなった。これらの人たちの友人を通じて、また彼女/彼らがニューヨークという都市のあちこちに残した―それがどこかのアーカイブの中、あるいは誰かのベッドルームにであろうと―その足跡や痕跡を通じて、私は彼女/彼らについてますます学んでいった。そして創造力をもっと探るようになる。それは組織化の仕事においては必ずしも探ることのなかったものだ。コミュニティの組織化キャンペーンに携わることは、とても活力を得られるのだけれど、同時に、障害をもつ私にとっては、他のことをするエネルギーが全く残らないほどきついものだった。私には完全にキャパオーバーだった。また、友人の多くが死んでいっていた。今までのやり方で仕事をつづけることは不可能だ、そう悟ったのはこの時のことだ。食べていくための別のやり方が必要だった。そうして、マーシャの物語のように私に大きな影響を与えた物語は、お互いに関連性を持っていることに私は気がついた。

 映画制作にどんなことがともなうのかは、まったくの無知だった。でも確固たる意志はあった。『Happy Birthday マーシャ!』で、サーシャ・ウォーツェルとの制作が始まり、私たちのカメラマンになったのがアーサー・ジェイファ。彼から学ぶことは、それは素晴らしい体験だった。最初の夜、私はモニターの前にいて、そしてはっきりと理解した。監督こそが私がやりたかった唯一の仕事なんだと。人びとの生や生活は都市の至るところに、一つ一つは取るに足らなく見えるけれど、すばらしい痕跡を残している。それらはこれからも残され続けていく。目の前に立ち現れてくるマーシャやシルビアのような人が生きた痕跡にふたたび息を吹きこむことができるのは、なんとも素晴らしいことだ。さあ、後を引き継いでいって、そんな風に呼びかけられているような気持ちになるから。

(聞き手:ヴィヴィアン・クロケット、キュレーター)

用語集

 

マーシャ・P・ジョンソン(Marsha P. Johnson) 
1992年に死去するまでニューヨークに住んでいたセックスワーカーでHIV/AIDSやLGBTQの人々の人権を訴えた活動家。生前はドラァグクイーンと自称していたとされる。友人のシルビア・リベラとともに、ニューヨークのゲイ&レズビアンのコミュニティに対してもトランスの人々へのサポートを訴え、社会からはじかれてしまった人々を支援するためにS.T.A.R.(「S.T.A.R.」の項目を参照)を結成した。1969年のストーンウォールの反乱は彼女により始められたと一般的に考えられている。A
-The Marsha P. Johnson Institute https://marshap.org/

オードリー・ロード・プロジェクト(Audre Lorde Project)
ブルックリンに拠点を置く、非白人のLGBTSTGNC(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トゥー・スピリット〈北米先住民で第三のジェンダー、あるいはそのほかさまざまなジェンダーロールを生きる人たち〉、トランス、ジェンダー・ノンコンフォーミング〈広く性別の表現が従来の文化的な規範に当てはまらない人たち〉)のコミュニティ形成やその活動を支援する組織。1994年発足、1996年より現在の拠点であるラ=ファイエット・アヴェニュー長老派教会の教区信徒会館にセンターを構える。ニューヨーク・シティ地域の非白人LGBTSTGNCコミュニティに関わる問題、例えばホモフォビアやトランスフォビアへの抗議行動、HIV/AIDSアクティヴィズム、刑務所収容者の待遇改善や移民の支援の働きかけ、若年層のコミュニティの組織化などに、さまざまなキャンペーンやワーキング・グループを通じて取り組んでいる。名称は黒人レズビアンの詩人で活動家であるオードリー・ロードに由来。N
-https://alp.org/

エジプト・ラベイジャ(Egyptt LaBeija)
1981年にニューヨークでエンターテイメントの世界に入ったエジプトは、いくつもの有名なバーやクラブでのパフォーマンスで活躍してきた。90年代には、ボールルーム(ballroom)のシーンに出会い、活動の場を広げた(ファミリーネーム=「ラベイジャ」はボールルーム文化における有名なグループの一つである「ハウス・オブ・ラベイジャ」に由来するが、彼女がその一員に迎え入れられたのは近年のことだそうだ)。2010年代に入ってからは、レイナ・ゴセットがインタビューでも語っているように、オードリー・ロード・プロジェクトに関わりアクティヴィズムの領域でも活動。ゴセット作品では『Happy Birthday マーシャ!』にも出演している(Miss Egypttとクレジット)。F
-参考:Interview with Icon Egyptt Labeija (Trans*Atlantic)

ルシール・クリフトン(Lucille Clifton)
詩人、小説家。1969年に最初の著作である詩集『Good Times』を刊行。生涯を通じて著書多数。2000年、『Blessing the Boats: New and Selected Poems 1988–2000』で全米図書賞(詩部門)を受賞。1988年には二冊の詩集『Good Woman: Poems and a Memoir 1969-1980』『Next: New Poems』でピューリッツァー賞(詩部門)のファイナリストに選出(同賞には1980 年にもノミネート)。クリフトンはまた子ども向け―特にアフリカ系アメリカ人の子どもたちに向けた―本もたくさん執筆した。ある詩の専門サイトの紹介によると「ルシール・クリフトンの作品は、アフリカ系アメリカ人の経験、家族での生活に特に焦点をあて、苦難を経た忍耐力や強さを強調する」。邦訳として、藤本和子編『女たちの同時代―北米黒人女性作家選 第7巻 語り継ぐ』(1982)収録の「末裔たち 回想」(藤本訳|原著=『Generations: A Memoir』、1976)。60年代から70年代にかけてのウーマン・リブの広がりを背景とした詩が集められた『現代アメリカ黒人女性詩集』(水崎野里子訳、1999)収録の7編。絵本『三つのお願い』(金原瑞人訳、2003、絵は日本で付けられたもの|原著=『Three Wishes』, 1976)。F
-参考:Lucille Clifton(Poetry Foundation)

『Happy Birthdayマーシャ!』(原題『Happy Birthday, Marsha!』, 2018)
レイナ・ゴセットとサーシャ・ウォーツェルが共同監督した15分の短編映画。2018年公開。著名なトランスジェンダーのアーティスト兼アクティヴィストであるマーシャ・P・ジョンソンその人とその人生について、1969年ニューヨークでのストーンウォールの反乱の火を彼女がつける、その前の数時間を通して描いた劇映画。マーシャ役を演じたのは、二人の非白人トランス女性セックスワーカーのストーリーを描いた映画『タンジェリン』(ショーン・ベイカー監督、2015)で主役の片割れを演じたマイヤ・テイラー。ゴセットがインタビューでその名に言及する、マーシャの友人でありS.T.A.R.の活動を共にした、シルビア・リベラ、バンビ・ラムーア、アンドラ・マークスらはみなこの映画の登場人物となっている。日本では2018年度の関西クィア映画祭で初上映された。F

バンビ・ラムーア(Bambi L’Amour)
シルビア・リベラとマーシャ・P・ジョンソンの友人で、S.T.A.R.の活動に参加。S.T.A.R.はトランス女性やドラァグクィーンのためのシェルターとしてS.T.A.R. Houseを運営しており、バンビはその施設のために働いていた。F


ゴセットはマーシャを"トランスジェンダー女性"と呼び、一般的にもそう認識されているが、当時彼女が、ゲイ男性や女性と区別して自身を指す言葉として実際に使っていたのは"ドラァグクィーン"だった。2019年にニューヨークタイムズのウェブサイトで発表されたドキュメンタリー で使われるマーシャの音声アーカイブではバーのストーンウォール・インについて「あそこに入れたのは当初はゲイ男性だけ、次に女性も入れるようになり、その次にドラァグクィーンたちが入れるようになった」と言っている。

他方で、設立した団体のS.T.A.R.という名称のTには"トランスヴェスタイト"の語が使われている。現在の英語圏ではあまり使われず、また好ましくない用語とされている(そう自称する人以外に使うのは適切でない)この語は、1900年代初めの神経学者による「異性装により性的な興奮を得る者」という定義から始まるが、のちには性的興奮を得るという意味は一般的には含まれないものへと変化していった。変化の中で持続した意味の部分は、服装に関するジェンダー規範「女らしさ」「男らしさ」の割り当てに従わず「異性装」をする人たちと大まかには捉えたらいいだろう。マーシャたちはこの語も自分たちを指す語として使っていた。

S.T.A.R.についての項目にあるように、この団体は特に(マーシャ自身もそうであった)セックスワーカーの援助に力を入れた。そこで客をとるという点で、路上(ストリート)という場と強く結びつくセックスワーカー。その人が「トランスヴェスタイト」でもあるときにどういう危険にさらされるのか。同じ人であり、同じく異性装であっても、着飾りバーへと繰り出すとき(そこにもなかなか入ることができなかったのだが)とはまた違った、マーシャたちが生きた世界が見えてくる。 F/A/N
-参考:Glossary of Terms - Transgender(glaad)
-参考:森山至貴『LGBTを読みとく』(ちくま新書)



ミス・メジャー(Miss Major)
ミス・メジャー・グリフィン=グレイシー、シカゴ出身。1950年代から特に非白人トランス女性に重点をおき活動する元セックスワーカーのトランス・アクティヴィスト。自身も投獄された経験を持つ彼女は、2005年からサンフランシスコにある団体Transgender, Gender Variant, and Intersex Justice Projectで、「産業化」されたアメリカの刑務所に投獄されたトランス女性の権利を訴えるなどの運動を続ける。2017年の関西クィア映画祭などで上映された長編ドキュメンタリー『メジャーさん!』(原題『Major!』)では、これらの活動に加えトランス・コミュニティで「ママ」と慕われ、実際に母/父であり、今では祖母/祖父にもなったミス・メジャーの姿も垣間見れる。A
-Major! https://www.missmajorfilm.com/

シルビア・リベラ法律プロジェクト(Sylvia Rivera Law Project)
シルビア・リベラ法律プロジェクトは、全ての人々が、収入や人種にかかわらず、また、いやがらせや差別や暴力にさらされることなく、自身のジェンダーアイデンティティやジェンダー表現を自由に自己決定できることが保証されるよう活動している団体。「ゲイの権利」運動が主流化していく中で周縁化された全ての人々のため、たゆみなく主張し続けたシルビア・リベラの名を冠し2002年に設立された。F
-https://srlp.org/

アレクシス・ポーリン・ガムス(Alexis Pauline Gumbs)
詩人で、在野学者、アクティヴィスト。「クィアな黒人のトラブルメーカーで、黒人フェミニストの愛の伝道者」を自称。2016年刊行の詩的著作『Spill: Scenes of Black Feminist Fugitivity』は、ジェンダー化された暴力やレイシズムからの自由を求めて逃亡する黒人の女性や少女たちを描いたシーンの圧倒的なコレクションとなっており、黒人フェミニスト文学批評、史学史や黒人フェミニスト思想家たちのことばと関わる対話的な実践に対するオルタナティブな方法を示している。本プロジェクトのパンフレットでトーマス・アレン・ハリスのインタビューで言及されたイヴォンヌ・ウェルボンら編『Sisters in the Life: A History of Out African American Lesbian Media-Making』にもアレクシスは寄稿(「世界をあらたに作り出す:黒人レズビアンの遺産とクィア映画の未来」)。また、ルシール・クリフトンの詩「大西洋は骨の海」を彼女が朗読し解説をする映像はネットでも公開されている。F
-https://www.alexispauline.com/

「Atlantic is a Sea of Bones(大西洋は骨の海)」
1987年刊行のルシール・クリフトンの詩集『Next: New Poems』に収録。アフリカ系アメリカ人のコミュニティに伝わるスピリチュアル(黒人霊歌)「Dem Bones」(「Dry Bones」とも)の歌詞の引用で始まる。奴隷としてアフリカから北米に送られる途上の大西洋の底に沈み、堆積されているかのような黒人女性たちの悲しみと苦悩を「骨」をモチーフに描いている。上記のアレクシス・ポーリン・ガムスはこの詩を朗読する動画の中で「(奴隷制という)巨大かつ組織的な暴力の痕跡が、海や陸地といった私たちを取り囲む風景のなかにも形を残し、私たちの名前に呼応する。その事実が持つ脅威と力とを、ルシール・クリフトンはこの詩で呼び起こしている」と語っている。N

S.T.A.R. (Street Transvestite Action Revolutionaries 〈行動する路上のトランスヴェスタイト革命家たち〉) 
シルビア・リベラとマーシャ・P・ジョンソンによって設立された若年層の非白人トランス女性(特にセックスワーカー)のホームレスを援助する団体。ストーンウォールの反乱の翌1970年、ニューヨークで開催された最初のゲイプライドマーチに際して、リベラもその一員だったゲイ解放戦線(Gay Liberation Front)などの団体がシット・インを決行。ゲイコミュニティに向けた法的支援、医療サービス、住宅斡旋を求めて行われたもので、この経験から自身の団体の結成を発想したと言われる。シルビアやマーシャ自身もホームレス状態を体験してきた当事者であった。F
-参考:An Army of Lovers Cannot Lose: The Occupation of NYU’s Weinstein Hall(Researching Greenwich Village History)
-参考:Street Transvestite Action Revolutionaries(Gay Liberation in New York City·OutHistory)

アンドラ・マークス(Andorra Marks)
アンドラも、シルビアやマーシャと共に、S.T.A.R.で活動した人物。映画『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』の中で、シルビアによる1973年の有名なスピーチ(「Y’all Better Quiet Down」)の記録映像が出てくるシーンがある。彼女は聴衆に向かってバンビやアンドラの名前を言及する。白人専用クラブに属するようなミドルクラスの男女のためではなく、我々全てのために何かをなそうとしている人たちの姿を、S.T.A.R. Houseに見に来て欲しいと。F

アーサー・ジェイファ(Arthur Jafa)
ミシシッピ州出身、アフリカンアメリカンのアーティスト、撮影監督。撮影で参加したジュリー・ダッシュ監督の『自由への旅立ち』(1991)で注目を浴びる。代表作にスパイク・リー監督の『クルックリン』(1994)、JAY-Zのショートフィルム『4:44』(2017)、ソランジュのMV『Don't Touch My Hair』(2016)など。A
-Art News https://www.artnews.com/art-news/artists/icons-arthur-jafa-9971/

サーシャ・ウォーツェル(Sasha Wortzel)フロリダ州出身、ニューヨーク拠点のアーティスト、映像作家。ときにドキュメンタリーとフィクションの技法を織り交ぜ、ジェンダー、セクシュアリティ、場所についての映像やインスタレーションなどを発表している。『Happy Birthday マーシャ!』をゴセットと共同監督し、その後も共同で作品の発表を行なっている。日本では、ケイト・クナスと共同監督の長編ドキュメンタリー『スターライトの伝説』(原題『We Came to Sweat』, 2014)が2015年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映された。最近ではアメリカで注目のパフォーマンスアーティスト、モーガン・バスキスがファイアー・アイランドで歌うMV『We Have Always Been on Fire』を監督。A
-http://www.sashawortzel.com/

*用語集はステートメントを翻訳したチームが執筆。執筆者はイニシャルで表記。
*映像はニューヨークの非営利アート団体 Visual AIDSが彼らのアニュアルイベントDay With (out) Artのためにコミッションした作品。ステートメントはVisual AIDSがインタビュー形式で行い発表したものを翻訳。詳しくはこちらを参照:http://normalscreen.org/dwa17

本プロジェクトその他の6作品はこちらから鑑賞できます。http://normalscreen.org/dwa17

Translation: Jun Fukushima
Editing: Atsuko Nishiyama/ Sho Akita/ Yuki Ocho/ Shin Nemura
With: C.I.P. Books and Visual AIDS


タン・ウェイ・キョン Between Us Two

Queer Visions 2019 (9月22日/同志社大学)の短編集で上映したサンフランシスコを拠点にするタン・ウェイ・キョンさんの映画『Between Us Two』がウェブ上で無料公開されたのを機に日本語字幕もつけてもらいました。この作品は、アヌシー・アニメーション国際映画祭やザグレブ国際アニメーション映画祭、新千歳空港国際アニメーション映画祭など世界で35以上の映画祭で上映され、アウトフェスト(2018年、米・LA)やシンガポール国際映画祭(2017年)で受賞もしました。キョンさんが自身の経験を元に制作した作品を以下からご覧ください!

タン・ウェイ・キョン Tan Wei Keong|1984年うまれ、シンガポール出身。個人的なストーリーとファンタジーの世界を通し自身のアイデンティティを探求する作家。南洋理工大学に入学しアニメーションというミディアムに魅了され制作をはじめる。2016年には、ANIME-ASEANの企画で日本4都市でのイベントに参加した。

キョンさんについてもっと知りたい方には、彼が2016年の来日時に行なった講演記録がおすすめ。
自身の活動とその他シンガポールのアニメーション表現について話しています。
http://newdeer.net/anime-asean/120 (ニューディアー)

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(日本語字幕 ©新千歳空港国際アニメーション映画祭)


2017 Short Film, 5'03" Photographs, Pixilation, Photocopies
Director: Tan Wei Keong (hello@tanweikeong.com)

Editor: Loo Zihan
Sound & Music: Darren Ng
Sous-titres français: Sophie Revillard
Japanese Subtitles by New Chitose Airport International Animation Festival https://airport-anifes.jp/