ステートメント ENDURING CARE
/ENDURING CARE
Day With(out) Art 2021
Visual AIDS
ケアを続けること、ケアを耐え抜くこととはどういうことでしょうか。数十年におよぶこの危機のなか、私たちはケアをどう持続させられるのでしょうか。
1996年に命を救う抗ウィルス剤の登場によりHIV周辺のケアは根本的に変わりました。しかし、未だにHIVを完全に治癒することはできずワクチンも存在しません。現在ではHIVは検出限界値未満まで減らし感染もしないところまで抑えられますが、HIVと生きるということは、自らの意志で毎日決められた通りに服薬を続け定期的に診察を受けることや、官僚的仕組みを前にした自己権利擁護(self-advocacy)、さらにスティグマや誤った情報との格闘と切り離すことはできません。「ENDURING CARE」は、こういった重なり合う現実を声にし、ケアワーカーやHIVと生きる人々の忍耐をみつめ、同時に、時に医療やヘルスケアがいかに辛く苦しく、アクセスが難しいものであるかを示唆しています。
この短編集では、次のような声に耳をかたむけ、活動を見つめます。何十年にもわたるHIV治療薬の服用によって引き起こされる副作用や医療問題について、長期サヴァイヴァーたち/ヘルスケア制度の崩壊によりHIVと生きる人々に不可欠な薬が届かない状況に立ち向かうメキシコのクィアとトランスのアクティヴィストたち/大胆な戦略をもちい、複数のAIDS関連団体がケアの提供を活動趣旨にしながらもスティグマと害を助長していると訴えるフィラデルフィアの黒人とブラウンのHIVケア従事者たち。
ネグレクト、悪用、乱用、製薬会社による利益誘導... こういった問題と向き合う中で、「ENDURING CARE」は、コミュニティをオーガナイズすることや相互扶助、医療やケアを通した連帯を作り直します。例えば、直面しているスティグマや恐怖についてよく考えるために音とビデオをもちいヴィジョンを共有する台湾のHIV+の女性たち/HIVと生きるプエルトリコの若い人たちが場所作りを通し繋がる姿/今あらためて解かれ現れる収監されていた女性たちの文章や詩のアーカイヴ/1980年代のイギリスで行政による初めての注射針交換プログラム実施のために警察と報道メディアを味方につけた公衆衛生役員を振り返る。彼らはどのようにそれを成し遂げたのか。/これらの作品を通してアーティストが、プライバシーや可視性に関わる問題と向き合いながら、いかに協同と弱さを隠さない状態を中心に据えたクリエイティヴな過程をへて、ケアを浮かび上がらせているかがわかります。
「ENDURING CARE」の参加アーティストらは、2020年の春 -- アメリカにおいてはコロナウィルスのパンデミックの初期であり、白人至上主義の存在を国中が無視できない状況だった頃 -- に最初の企画書を提出しました。審査委員はアクティヴィストでアーティストであるアイヴィー・アルシー、ジーン・カルロムスト、トーマス・アレン・ハリス、マシュー・ロドリゲス。この(HIVの)パンデミックを“終わらせる”という会話においては、毎日を生き抜くことの継続やこのウィルスと生きる日々を充実させることよりPrEPや予防の方が語られがちですが、あらためてHIV+の人々の経験を中心におくことを意識した7つの企画書が選ばれています。
しかしCOVIDが一過性でなく2020年中続く長い現実であることを集団として我々が理解し始めるなか、知恵や知識の情報源として、そしてこのパンデミックを生き抜き耐え抜くために、人々が長期サヴァイヴァーとAIDSアクティヴィストたちを頼りにし始めている姿に気づきました。同時に、米国では構造的人種差別やファシズムや搾取的な労働システムに対抗する草の根の組織化への大きな注目も伺えました。 黒人、ブラウン、先住民、クィア、トランス、障害をもつ人々のコミュニティにとって長く礎石となってきた相互扶助の構造がどのようなものかを多くの人は初めて経験していたのです。
「ENDURING CARE」のビデオはCOVIDだけにフォーカスはしていませんが、それぞれのテーマは両方のパンデミックに共鳴します。私たちが個としての力と集合的な力について想像力を働かせることを限定しようとするシステムへの応答として、「ENDURING CARE」は私たちお互いの深い繋がりや恩を強調しているのです。
このプログラムを観た後には、ぜひ自分の政治的意識がこの1年半でどうシフトしたかを考えてみてください。あなたは自身のコミュニティとの連動性をどのくらい意識するようになりましたか?それはあなたのケアへの理解にどんな意味を持っていますか?あなたのコミュニティにとって本当に意味のあるケアの仕組みとはどのようなものですか?
以上の文章は、 テッド・カー、ブレイク・パスカル、カイル・クロフトがWhat Would an HIV Doula Do?コレクティブとThe New School大学のテッド・カーの授業「Life During Memorialization: History and the Ongoing Epidemic of HIV/AIDS in the USA」の学生の意見を聞きながら執筆したものをノーマルスクリーンで翻訳したものです。原文(英語、PDF)はこちら。
本企画についてはこちら:http://normalscreen.org/events/dwa21
翻訳:Sho Akita
翻訳/編集協力:Jun Fukushima(Political Feelings Collective)