Being and Belonging 作品詳細
/ニューヨークのアート団体Visual AIDSによる映像集「BEING AND BELONGING」の作品についての情報とそれぞれの作品についてや作品をとりまく状況をより深く考えるためのヒントを紹介します。
コロンビアではHIVと生きる人の多くが、政府から支給される低価格な抗レトロウイルス薬の副作用として、黄疸(目や皮膚が黄色くなること)を経験している。本作は、この副作用の結果として経験する疎外感や極端な可視性と向き合っている。 (Los Amarillosとは「黄色いやつら」の意)
二人は自分たちの身体の持つ“力”を通し、安価な抗ウィルス剤だからと言って苦痛やスティグマ化された副作用が伴う必要はない未来を目指し行動することを呼びかける。
・AIDS危機の初期には、HIVを持つ人を認識する身体的状態として、紫色の腫瘍ができたり顔が痩せ細る症状などが一般的にありました。病気や障害が目に見える状態になったとき、何が起きるのでしょうか?体内の症状や障害と外から見てわかる症状や障害の違いについて話してみましょう。健康を身体的な状態から名づけることによりどのようなことが待ち受けているでしょうか?
・あなた自身の薬との関係を考えてみてください。COVIDやサル痘のワクチン、PrEPや避妊薬、抗うつ薬や他の治療薬との関係はどのようなものでしょうか?薬を得るのにどのような難関がありましたか? 薬により自分自身の理解や他者とのつながり方は、どのように変化しましたか?
サンティアゴ・レムス Santiago Lemus (he/him) 自然のものやイメージや音を用いて、アート、自然、景色の関係性について表現するアーティスト。Tomamos la Palabra共同設立者。IG: @santiagolemuss
https://santiagolemus.com/
カミロ・アコスタ・ハンターテキサス Camilo Acosta Huntertexas (he/him) 実験映像を主に制作するヴィジュアルアーティスト。House of Tupamaras共同設立者、パフォーマンスのコレクティヴStreet Jizzのメンバー。IG: @huntertexasvideo
https://huntertexas.tumblr.com/
本作監督のカミラ・アルセがアルゼンチンでHIVをもって生まれた自身の経験、そして南米で初めて抗HIV薬にアクセスできた世代として育った経験についての詩を届ける。
ビデオのなかで、アルシーは自分にも植え付けられた「苦しみ」や「死」といった語りに自分が括られまいとする姿が伺える。苦悩だけではなく、コミュニティの存在やプロテストや集いの場やアクテヴィズムも彼女を形作っている重要な要素であることもここではっきりと示される。(Verticalesは、母子感染を意味するvertical transmissionから来ている。)
・彼女はインタビューで「verticales世代」が大人と呼ばれる年齢になろうとしていると語っています。「親や保護者が私たちの代わりに話すのではなく、これは私たちが自分達のことを自分で話す初めての機会なのです。」と。
・アルゼンチンでは、現地のAIDSアクティヴィストの努力により、今夏、HIVとともに生きる人々の市民権を保障することや、女性や子どもに対する特別な保護を制定しHIV薬の国産化を提案する一連の新たな法律が成立しました。
カミラ・アルセ Camila Arce (she/her) アルゼンチンのロサリオ拠点のアクティヴィスト。27年前の出生時からHIVと生きている。IG: @sidiosa
アメリカ人のダヴィナ “Dee” コナー は、1997年にHIV陽性の診断をうけた。それから18年間、自分以外にHIVと生きる人はいないと思い込んでいた。孤立と内在化したスティグマから前進しようとしたとき、ダヴィナはHIVと生きる他の黒人女性の人生を理解し始めた。ここにいる、彼女たちの声に耳を傾けてほしい。
ビデオでインタビューに答えているのは、Evany Turk、Stacy Jennings-Senghor、Acintia Wright、Alecia Tramel-McIntyre、Tamera Garret、Davina “Dee” Conner。彼女たちの声はHereWeAreVoices.comでもっと紹介されている。
・本作は共同監督であるコナーがHIVと生きてきた経験、そして彼女が長年続けているポッドキャスト番組 Pozitively Dee's Discussion をベースにし、発展させたものです。
・ビデオに登場した数人は、HIVに関する情報で黒人女性を見ることがなかったと語っています。あなたが見るAIDSに関するメディアなどでは誰について話され、誰が取り残されがちですか?メディアなどの表象(描かれ方やイメージとして登場することなど)は、あなたの体調や感情やメンタルにどのような影響を与えますか?HIVを持っていない人は、メディアなどでの表象は、HIVと生きる人々やその生活についてどのようにあなたの考えを形作っていますか?
ダヴィナ “Dee” コナー Davina “Dee” Conner (she/her) 1997年からHIVと生きるHIVエデュケーター、国際的に活躍するスピーカー、ポッドキャストホスト。IG: @pozitivelydee
https://linktr.ee/davinaconner
カリン・ヘイズ Karin Hayes (she/her) 受賞歴のあるドキュメンタリー監督、プロデューサー。IG: @karin_hayes
42枚の連なり合うイメージ。そこに韓国に住み、HIVと生きるアーティストと誰かの対話のような考えや思いが耳元でささやくように読まれる。それは、間、陽性/陰性、安全/危険などの差異などについてのようである。
本作はU=Uの単なる科学的な根拠をこえた、異なったHIVステータスを持つ2人の関係(serodiscordant)の心理的な本質を捉えようとしている。さらに、たとえ信頼できる療法があってもスティグマが蔓延している状況では、つながりが断ち切られることもある現実を見つめている。
・キムは見えるものと見えないものを非常に精密にコントロールしています。二人の登場人物の身体は、ビデオにはほぼ出てきません。キムはアーティスティックな方法として、不在と不透明をどのように使っていると思いますか?このような表現/手法により、直接的な描写や可視化することではできない、どのようなことを可能にしているでしょうか?
・もう一度鑑賞して、本作のヴィジュアルと音と言葉がどのような関係にあるのか、新たに気づくことがあるか考えてみてください。
キム・ジェウォン Jaewon Kim (he/him) ソウル拠点。クィアの人々やHIVと生きる人々の人生についてビデオ、写真、インスタレーション作品で表現する。IG: @etc.1
https://linktr.ee/jaewonkim
ドラッグを楽しむ集まり(キメセクなど)の参加者の、不協和音的に並ぶ身体のイメージや音。カナダのアーティスト、ミキキが他のドラッグユーザーと“薬物は害でしかない”という既成概念をこえて(快楽や帰属について語るときには、さらに語られることは少ない)薬物使用の快楽を伝える方法について他のドラッグユーザーと語る。
ミキキは本作のために何人もの友人たちを撮影しインタビューも行った。しかし、薬物注射をとりまくスティグマがあまりにも大きいため、実際に出演の許可をしたのはそのうち2名だけだったという。声が使用されているのはジェームズとアリだ。彼らは、世間が「ドラッグユーザーがなぜドラッグを使用するのか」を理解しようとするよりも罰する傾向にある点について語っている。ジェームズは鑑賞者に「good addicts」になるためのツールを人々に渡したら何が起こるかのかを考えるように訴えかける。
・あなたが生きてきたなかで受けた、ドラッグに関する世間からのメッセージ(教育や広告や周りの声など)について振り返ってみてください。覚醒剤、大麻、アルコール、カフェインなどのリスク、責任、危険性についてのメッセージにはそれぞれ違いがあると思いますが、何がその差異を生むのでしょうか?
・ドラッグを使う人々は長い間、AIDSアクティヴィズムの先陣をきってきました。注射針の交換プログラムや安全にそれが利用できる場所を作り、ドラッグユーザーのコミュニティはハームリダクションをひろめました。
・覚醒剤を使用するゲイ・バイセクシャル男性を対象としたカナダの調査研究報告書を日本語に翻訳したパンフレット「クリスタル メタンフェタミン プロジェクト」も読んでみてください。当事者へのインタビュー、治療や支援における「提案」も掲載されています。
マイキキ Mikiki (they/them) アカディア/ミクマク族とアイルランド系にルーツをもつパフォーマンスおよびビデオアーティスト、クィアコミュニティのヘルスアクティヴィスト。オックダーハムグック(Ktaqmkuk)(カナダのニューファンドランド島)出身。IG: @mkkultra
https://menshealthproject.wixsite.com/mikiki
本作は、人種間(スペインの白人と先住民)の融合という幻想を強調する植民地的思想であるメスティサヘ(mestizaje)というコンセプトを批評し、メキシコ社会において黒人や先住民たちが人種階級というものの中で底辺におかれている実状を指摘している。
このビデオでは、アーティストの2人がメスティサヘという“プロジェクト”における自分たちの位置についても考察している。1つ目のダンスの終わりに、ラ・ジェリーはマスクを取る。これは、白人性からの脱却を意味している。ラ・ジェリーより肌が白いサンポルテカは、ビデオの最後まで仮面をつけたままだ。重要なシーンで、彼は、先住民サポテカ族の言葉で話す母親の言葉と重ねながら、自分の“白さ”を直視する。
仮面を外したサンポルテカは、ラ・ジェリーとともに最後のダンスを踊る。彼らは大地から錠剤のボトルを「収穫」し、HIV感染者に充分な薬の提供をしていない政府に対する運動に連帯する。彼らは、自分たちの肌の色の違いを無視するのではなく、白人性との多様な関係を認める新しいかたちの関係を構築しようとする。
・ビデオの冒頭に登場する壁画は、公共の場に存在するもので、1519年にスペインがメキシコに侵略してきた状況をDesiderio Hernandez Xochitiotzinが描いたものです。ヴォイスオーヴァーは、征服者(コンキスタドール)がどのように先住民の文化を分断しつつも選びながら彼らの社会に融合させ、権力を増していったかを説明しています。この植民地化による分断や階級を生んだことにより、現在のメキシコやラテンアメリカでHIVと生きる人々はどのような経験をしているのでしょうか?
・メキシコの先住民にHIVがどれほど広がっているかについての調査はあまりありませんが、このエピデミックにより、かなりの影響を受けていることは知られています。ことばの壁の問題が大きいことが原因としてあげられますが、メキシコでは先住民により多くの言語が話されているにもかかわらず、ヘルスサービスはスペイン語のみで予防の情報を提供しています。
ラ・ジェリ La Jerry (they/them) メキシコのフチタンで生まれ育ったノンバイナリーのフォークダンサー。IG: @__lajerry
ジョエル・サンポルテカ Jhoel Zempoalteca (he/him) メキシコのトラスカラ出身のヴィジュアルアーティスト、エデュケーター。 IG: @jhoelze
アメリカで数名の黒人の人々がHIVと生きることについて正直な会話をしている。公表、拒絶、自分を愛すること。それらが映像詩と夢のような情景とともに描かれる。年配のマイケル・バレン・ウィズローは、U=Uの現在と感染の不安がセックスやデートにつきまとっていた過去を比べる。ディアンジェロ・ラブ・ウィリアムズは出会い系アプリでステータスを公開し、家族にも伝えていることを話す。
最後は監督のキングがシャワーを浴びながら詩を読み、その後にSadeの「Kiss of Life」のカバーをバックにキングと彼の恋人のような人が砂埃をたたせながら走っている。これらの瞬間と現れるタイトルは、愛と共同体により可能となる再生、浄化、自己回帰を示唆している。
・多くの場合、HIVが人間関係の文脈で語られるとき、その話題の中心は恋愛関係です。『Kiss of Life』は、その典型をこえて、HIVが家族との関係に与える影響や、HIVとともに生きることで生まれる新たな友情やコミュニティについて表現しています。恋愛や性的な関係を超えて、HIVの影響だけを考え続けたとき、どのような可能性が生まれると思いますか?
・キングが本作のインスピレーションにしているのは、マヤ・アンジェロウの詩「Recovery」とマーロン・リグスの『タンズアンタイド』です
クリフォード・プリンス・キング Clifford Prince King (he/him) ニューヨークとLA拠点のアーティスト。キングは、伝統的な日常におけるクィアでブラックの男性としての自身の経験である親密な関係を記録する。IG: @cliffordprinceking
以上の文章はVisual AIDSが発行したリソースガイドをベースにノーマルスクリーンで作成したものです。イントロダクションは、原文に忠実に翻訳し、それ以外は、ガイドから情報を選び翻訳と執筆し、構成しています。
2022年12月23日にぷれいす東京と共催したこちらのディスカッションの記録もぜひ見てください。
出演: 福正大輔さん/ブブ•ド•ラ•マドレーヌさん/HIRAKUさん/生島嗣さん/SHO